[メイン2]
高海 千歌 :
─────あの頃と全く同じ光景。
懐かしい授業を受け、大人になった今でも頭がグルグルになってしまいそうになりながらも
どこか……学生の身を楽しんでいる自分もいるようで。
[メイン2]
高海 千歌 :
そして校内に響く、お昼休みを告げるチャイム。
がらりとB組のクラスを出て、廊下を歩く。
[メイン2]
高海 千歌 :
複雑な心境が千歌の中で渦巻く。
……もしかしたら、学生時代にできなかったこと。後悔したことが
今こうして、この場にいることで……取り戻すことができるんじゃないか……?って。
[メイン2]
高海 千歌 :
元の居場所に戻って、いつものようにお客さんと接して
過去に蓋を閉じ、漫然と過ごしていた私に戻って……。
それが………今の私にとって、良いこと……なんだろうか。
[メイン2]
リンネ :
複雑な心境を知ってか知らずか
普段通りといえば普段通りな、少しやかましい調子の声がかかる
[メイン2] リンネ : 「千歌、千歌!こっち、こっち〜!」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……!あ、リンネちゃん!」
明るい声にすぐ気が付き、そちらの方を向く。
[メイン2]
加奈代 :
「雪月ちゃ~んこっちこっち~」
リンネの声のトーンを真似て、合流しに来た
[メイン2] リンネ : 「今、方針を相談する為に集まろうと思って……どうして真似するの!」
[メイン2] 高海 千歌 : 二人のやり取りを見て、あはは…と笑う。
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「皆さんさっきぶりですね」
[メイン2] 高海 千歌 : 「方針……うん、そう……だよね」
[メイン2]
漆黒の翼のアイスヴァイン :
「それで何か分かりました?」
ワクワクとした表情で話を聞きいる
[メイン2] 加奈代 : 「方針ね~授業が終わったら帰るじゃダメなのかしら~?」
[メイン2] リンネ : 「えー!?」
[メイン2]
高海 千歌 :
千歌はというと、他の3人とは違い、"普通"の人間であるため
分かるものは、何一つ得られなかった。
[メイン2] リンネ : 「い、いえ、まずは理由を聞かせてもらうわ!」
[メイン2] 高海 千歌 : 申し訳なさそうに首を横に振りながら。
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「ほう…?そのまま帰ると?」
[メイン2] リンネ : ビシッと指を加奈代に向ける
[メイン2] 加奈代 : 「え~?だって~授業が終わったら皆お家に帰るんじゃない?行きの電車?があったなら帰りの電車もあると思うわよ~?」
[メイン2] 高海 千歌 : 「ん、んんーー……そういうもの、なのかなぁ……?」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「なるほど確かに理に適ってますね」
[メイン2] 加奈代 : 「名残惜しいのは確かなのだけどね~久しぶりに皆でお勉強するの楽しいわ~」
[メイン2]
高海 千歌 :
「えーと……加奈代ちゃんは、こういう現象とか……
慣れていたりとかしてたんだっけ……?」
[メイン2] 加奈代 : 「いいえ?とっても変よね~」
[メイン2] リンネ : 「じゃ、じゃあ。なんで平然としてるの!?」
[メイン2] 加奈代 : 「だって、学生の頃から何も変わらないのならそれで良いんじゃないかしら~?今日が終わったらたまには通いたいわ~」
[メイン2]
高海 千歌 :
「あ、あれ、そう、なんだ……?う、うん、すごく変、だけど……
……あ、あはは……加奈代ちゃんは、相変わらずだねー……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………何も変わらないなら、それで良い……かぁ」
[メイン2] 加奈代 : 「そうよ~?私は変わらないのならそれで良いと思うわ?…千歌ちゃんは違うの?」
[メイン2]
高海 千歌 :
……………ちょっぴり、私の中で思う部分はあるけど。
でもそれは、うまく言葉にできないもだから……。
[メイン2] 高海 千歌 : 「…………ん……あ、あはは……」
[メイン2] 高海 千歌 : 照れ臭そうに笑いながら。
[メイン2] リンネ : 「むう…」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……私は……うん、学生時代……スクールアイドルっていうのやってて
みんなが知ってるかどうかは分かんないけど……」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……"何も変わらない日常"を打開したくて初めて
でも結果は………えへへ、リンネちゃんは知ってる、よね……?」
[メイン2]
漆黒の翼のアイスヴァイン :
「知ってるも何も…今そうですよね?」
「…なにかあったんですか?」
[メイン2] リンネ : 「……それは」
[メイン2]
高海 千歌 :
「うぇっ、あ、そ、そっかぁ、今私、スクールアイドルなんだ……!?
ご、ごめんね雪月ちゃん……!なんだか、変なことに着き合わせちゃって……」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……え、えっと、雪月ちゃんは……こういう現象とかって
知ってたりするものって、あるかなぁ……?」
[メイン2] リンネ : 歯切れの悪いコメントの意図を察したのか、表情の複雑さに哀の色がつく
[メイン2]
高海 千歌 :
リンネの表情を見て、ううん、大丈夫、ありがとう。と言うような表情で
ニコりと、自嘲の微笑みを向けつつ。
[メイン2]
高海 千歌 :
「雪月ちゃんは、やっぱり……"普通"じゃない、すっごい力を持ってて……
だから、もしかしたら……この現象について、打破できる何かを
知ってたり~、とか……」
[メイン2]
漆黒の翼のアイスヴァイン :
「う~ん時空間異常とかなら聞いたことありますけど」
「まあ実際に見るのは初めてですね、まあ私は実感ないですけど」
[メイン2] 加奈代 : 「じくうかんいじょう」
[メイン2] 高海 千歌 : む、難しい単語だぁ……。
[メイン2] リンネ : 「むずかしいことばよ、理解できないから一緒に絵本でもよみましょ」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……リ、リンネちゃん……?体だけじゃなく、考えてることまで
子どもになってない……!?」
[メイン2] 加奈代 : 「どんどん退行していっちゃってるのかしらね?可愛いわ~」
[メイン2] リンネ : 「こ、こわいことをサラッと言ってくれるわね…!!」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「えっ…それはかなりマズいのでは…?」
[メイン2] 高海 千歌 : 「マズいよぅ……!?」
[メイン2] 加奈代 : 「うふふ、実際どうなのかはリンネちゃんに聞いてみればわかると思うけれど…」
[メイン2] リンネ : 「まだ、特に自覚してるわけじゃないけど……多分、今は大丈夫」
[メイン2] リンネ : 「…周りの物が大きく見えるから、ちょっぴり不安だけど」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……だ、大丈夫!!」
[メイン2] 高海 千歌 : ─────"あの頃"の私みたいに、元気な声がつい、飛び出る。
[メイン2] 加奈代 : 「みたいね~そのままでも可愛いわ~」
[メイン2]
高海 千歌 :
「きっと、元に戻る方法はあるはずだから……ね?」
ニコりと、リンネに微笑む。
[メイン2] リンネ : 「…そ、そうよね!」
[メイン2] 高海 千歌 : こくりと頷き。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……そうだ!じゃあじゃあ、楽しい話しようよ!」
[メイン2] リンネ : 「いいわね!」
[メイン2]
加奈代 :
「は~い」
これまでも楽しい話だったと思うのだけどね~
[メイン2]
高海 千歌 :
「せっかく学生時代に戻れたんだし……
……あ、そうだ!みんなが小さい頃、何をしていたのか!とか!」
[メイン2] リンネ : 「小さい頃……」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「小さい頃ですか…」
[メイン2] 高海 千歌 : リンネの反応を見て、ハッ、とした表情になる。
[メイン2] 加奈代 : 「……………………………」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : (……何やってたっけ?)
[メイン2] 高海 千歌 : 両手をパーにした状態で自分の口を抑えながら。
[メイン2]
加奈代 :
「そうね~……え~と…」
笑顔のまま固まってる
[メイン2] リンネ : 「……む、人の顔を見て何を驚いてるのよ、千歌」
[メイン2] 高海 千歌 : 「あ、え、あ……えっと……」
[メイン2] 高海 千歌 : ギクシャクとした空気が流れるのを感じながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……何か、飲み物買ってくるね……!」
[メイン2] 高海 千歌 : 逃げ出すように、記憶を頼りに自販機のある場所へ駆け出す。
[メイン2] リンネ : 「……そういえば、千歌には話してたかしら?」
[メイン2] リンネ : 少し思い当たる事ができたのか、合点がいったように手を合わせる
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「何の話?」
[メイン2] リンネ : 「昔の話、人質にされた事があったのよね」
[メイン2] リンネ : サラッと言ってのける
[メイン2]
加奈代 :
「あら~そうなの?全然知らなかったわ~」
基本的にテレビや新聞を見ない と言うか扱うのに慣れてない
ニュース何かの情報は全然知らなかった
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「人質…?初めて聞きますねそんな話」
[メイン2] リンネ : 「まあ、学生の頃の話じゃなくて、私が今の外見くらいの時だし、知らなくて普通だもの」
[メイン2] リンネ : …そーいえば、学生の時は火事に見舞われたし、私って結構な不幸体質?
[メイン2] リンネ : 「……まあ、正直話してて恥ずかしいお話だから、他の人のを聞かせてちょうだい!」
[メイン2] リンネ : 「はい、加奈代!」
[メイン2] 加奈代 : 「う~んそこで私に来ちゃうのね~」
[メイン2]
加奈代 :
「そうね~…」
上手く年齢を合わせようとどうにか…どうにか…
[メイン2]
加奈代 :
「…これ会話の話題どっちなのかしら~?」
リンネの方なのか去っていった千歌の方に合わせるべきなのか…
[メイン2] リンネ : 「千歌が言ってた昔の……なんなら、未来の事でもいいのよ!」
[メイン2] 加奈代 : 「うーん…リンネちゃんのインパクトには負けないお話となると…」
[メイン2] 加奈代 : 「そうねえ、ちょっとした誤解と恋のお話?」
[メイン2] リンネ : 「おお……加奈代にもそんな甘酸っぱいお話があったのね!?」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「ほう…恋のお話ですか」
[メイン2] 加奈代 : 「そうよ~もう大昔のお話ね~」
[メイン2]
加奈代 :
「私には姉がまず居たのだけど~姉と付き合ってる子が居たのよねえ」
「あ、男の子よ?」
[メイン2] リンネ : 「お姉さんかぁ……ちょっと親近感湧くわね!」
[メイン2] 加奈代 : 「私姉の事を尊敬してたのだけど…その付き合ってた子がね?」
[メイン2] 加奈代 : 「私の事の方が好きーって言っちゃったらしいのよねえ。どこが良かったのかしら~」
[メイン2] 加奈代 : 「それがあって、姉との関係が凄く悪くなっちゃったのよ~」
[メイン2] リンネ : 「しゅ、修羅場だわ! お昼の番組が始まってしまったわ…!」
[メイン2]
漆黒の翼のアイスヴァイン :
「なんだノロケ話ですか…」
「それでその子とはどうなったんです?」
[メイン2] 加奈代 : 「流血沙汰まで行って、私一人が離れる形になったわね~怖かったわ~」
[メイン2] リンネ : 「た、大変じゃない!!」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「えっ…」
[メイン2] 加奈代 : 「…姉の事、本当に好きだったのだけどねえ、ふふ」
[メイン2] リンネ : 「…そのあと、お姉さんとは?」
[メイン2] リンネ : 不穏さを感じながらも、思わず質問が口からこぼれ出す
[メイン2] 加奈代 : 「さっぱりよ、その付き合ってた子も一度も顔を見ていない」
[メイン2] 加奈代 : 「だから、いつも思うのよ~変わらないのなら、変わらないままで良いって~」
[メイン2] リンネ : 「……仲直りも、しなくていいと思うの?」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : (う~む深い…)
[メイン2]
加奈代 :
「う~ん…もう過ぎちゃった事なのよね~」
起こった年代は明治よりも前の話
とっくに関係者は死亡している
[メイン2] 加奈代 : 「それに、その二人がどうなったのかも、良く知らないのよ~」
[メイン2]
リンネ :
…会いに行けるのなら、探しに行けるけど
どうしてか、直感なのかわからないけど
それは無理なのだ。加奈代の声から、それを察すると……
[メイン2]
加奈代 :
「また出会って、また惚れました~ってなっちゃったら笑っちゃうじゃない?今度は死んじゃうかも~」
ほんのちょっとだけいつものペースに戻りながら
[メイン2] 加奈代 : 「そういうのもあって男の人との恋愛って苦手なのよね~」
[メイン2]
リンネ :
「……そっか」
「加奈代も、いっぱい苦労してたのね」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「……」
[メイン2] 加奈代 : 「今が楽しいから大丈夫よ~?それにその後に~………」
[メイン2]
加奈代 :
「皆と出会えたものね~」
嘘は 言っていない 後ではあるのだから
[メイン2] リンネ : 「ふ、ふふん!そう言ってもらえると嬉しいわ!」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「…ふふっ、そうですね」
[メイン2]
リンネ :
「……少し、難しい話をさせちゃったし」
「後でお詫びに、昔あった。ちょっと素敵な事を話してあげるわ!」
[メイン2] 加奈代 : 「あら~それもとっても気になるわ~!」
[メイン2]
加奈代 :
「でも~?まだ話してない子が~?」
ニコニコしながら雪月の方を見る
[メイン2] リンネ : 「そう!」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「わ…私ですか?」
[メイン2] リンネ : 「さあ、立花!割とぶっちゃけ会場と化してきたしあなたも何か話してちょうだい!」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「そうですね…」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「私は子供の頃は普通の少女でしたね、この力を手に入れるまでは」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「そう、私が奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使アイスヴァインに選ばれたのは…」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「つい最近の事です」
[メイン2] リンネ : 「……そういえば、立花はこの病気を患ってたわね」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「ちょっとなんですか病気って」
[メイン2] リンネ : 「いいのよ、立花。そういう時期は誰にだってあるの」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「むう…信じてませんね私の、アイスヴァインの力を」
[メイン2] 加奈代 : 「あらあら~私はちゃんと信じてるわよ~えっと~…そふとくりーむ?」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「アイスヴァインです」
[メイン2] リンネ : 「アイスクリームだったわね」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「だから…はあ、もういいです」拗ねる
[メイン2] リンネ : 「あはは…ごめんごめん!でも、不思議な事ばっかり言うから…」
[メイン2] 加奈代 : 「天使だったり鬼だったり忙しいのね~」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「堕天使って奴ですよ」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 彼女の言う二重人格とは基本…設定が不安定だ
[メイン2] 加奈代 : 「基本的に悪い人みたいな能力ね~でもかっこいいんじゃないかしら~」
[メイン2] リンネ : 「……よし、これでみんな昔話ができたわね!」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「そうでしょう!」フフンと得意げに
[メイン2] リンネ : 足場にしていた台から降りると
[メイン2] リンネ : 「そろそろ、千歌も戻ってくるでしょうし、一旦別れましょう!」
[メイン2] 加奈代 : 「そうね~もう一回先生のお小言を聞くの悪くないけれど~」
[メイン2] 漆黒の翼のアイスヴァイン : 「そういえば千歌遅いですね…ちょっと探してきますか」
[メイン2] リンネ : 「それじゃ、しゅっぱーつ!」
[メイン2]
リンネ :
目的も、意図もバラバラのまま
縄で電車を作って進むような具合で、私たちは解決へと乗り出した
[メイン2] リンネ : この先に、何があるんだろう?
[メイン2] リンネ : そんな小さな疑問は、懐かしい雑踏の中に隠れて、まだ答えには辿り着かない
[メイン2] リンネ :
[メイン2] リンネ :
[メイン2] 高海 千歌 :
[メイン2] 高海 千歌 : 少しギクシャクとした感じは拭えないまま、放課後になった。
[メイン2]
高海 千歌 :
あの頃、一緒に楽しく過ごしていたクラスメイトのみんなとも
本当に、あの頃そのまんまの形でお喋りもして。
[メイン2]
高海 千歌 :
改めて私は、過去にいるんだなっていうことを実感した。
─────外の夕焼けの色を眺めながら、ここが夢のようで
現実に近い……いや、もしかしたら、現実そのものなんだな、って。
[メイン2]
高海 千歌 :
そんな私は………胸の鼓動を抑えながら
おそるおそる……どうしてか臆病風に呑まれそうになりながら
とある場所へ歩を進めていた。
[メイン2] 高海 千歌 : 「…………あ」
[メイン2]
高海 千歌 :
─────部室棟。
ここは、授業を終えて、みんなが色々な部活動に励んでいる場所で。
[メイン2] 高海 千歌 : その中の一室の扉を少しだけ開け。
[メイン2] 高海 千歌 : ─────スクールアイドル部のみんなが、ダンスの練習をしている光景を見て。
[メイン2] 高海 千歌 : ……どうして、こんなコソコソとしてるんだろう、と自分ながら、変だなと思いながらも。
[メイン2] 高海 千歌 : 中に入る勇気も、無く。
[メイン2] 高海 千歌 : とぼとぼと、部室棟の出入り口辺りまで帰っていった。
[メイン2]
石戸 霞 :
千歌の額に、こつん。
冷たく硬い感触が当たる。
[メイン2] 高海 千歌 : 「ひゃっ……!?」
[メイン2]
石戸 霞 :
見上げればわかるだろう。
石戸 霞が、紅茶のペットボトル片手に千歌に付けていた。
[メイン2] 高海 千歌 : 「ぁ………霞、さん……」
[メイン2]
石戸 霞 :
「せっかく"昔"に戻れたみたいなのに
見に行かなくていいのかしら~?」
[メイン2] 石戸 霞 : 微笑ながら、千歌にペットボトルを手渡そうとする。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……あ、はは……もしかして、見てました……?」
[メイン2]
高海 千歌 :
照れ臭そうに、自嘲の笑みを溢しながら
ペットボトルを受け取る。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……霞さんにしては、珍しいチョイスですね
ありがとうございます」
軽く冗談を溢しながら、少しだけ飲み。
[メイン2]
石戸 霞 :
覗くつもりはなかったのよ~?と。
軽く手を振りながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
「ええ、彩音ちゃんに教えてもらったの
昔に戻ったのに、新しいことを知ったなんてヘンな気持ちね」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……ふふ、新しいこと、かぁ」
[メイン2] 高海 千歌 : 「霞さんは、学生時代、満喫してそうですね?」
[メイン2] 高海 千歌 : ベンチに座り、足をプラプラとさせながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
「あら、バレちゃった?」
[メイン2] 石戸 霞 : くすり、と笑いながらも肯定して。
[メイン2] 石戸 霞 : 「だって……学生時代は振り返っても一番楽しかった場所だもの」
[メイン2] 石戸 霞 : 「”今”に比べたら、とっても楽しいわ」
[メイン2] 高海 千歌 : 「…………」
[メイン2] 石戸 霞 : 目を細めて。
[メイン2] 高海 千歌 : その言葉に、共感の念を抱くものもあり。
[メイン2] 高海 千歌 : 「………霞さんにとっての、学生時代の"青春"って、なんですか?」
[メイン2]
石戸 霞 :
「……そうねえ……
友だちみーんなと、お話しすることかしら」
[メイン2]
石戸 霞 :
ぽふ、と。
千歌の隣に腰を下ろして。
[メイン2]
石戸 霞 :
「私はね……その青春が楽しかった
お役目も少なくて、麻雀も出来て……
こんな自分と関わってくれた子がいることが、何よりのものだったの」
[メイン2] 石戸 霞 : 「千歌ちゃんは、どう?」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………ううん、霞さんは……私にとって、憧れの人の内の一人でしたよ」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の瞳をじっと見つめながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「だから……そんな卑下するようなこと、言わないでください」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……だって、霞さんは……えっと、確か……そう……!
神様!神様を降ろせるって、そんな話を前に聞いたような……」
[メイン2]
石戸 霞 :
霞は、見つめられながらも。
微笑んだ顔は崩さずに。
[メイン2]
石戸 霞 :
「ふふ、憧れだなんて照れちゃうわね
でもね」
[メイン2]
石戸 霞 :
神様、と言われ。
千歌にぱちり、と目を瞬かせる。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……その神様を宿してるから、私は憧れとは程遠い存在なのよ」
[メイン2] 高海 千歌 : 「え……?それは……どういう、意味で……?」
[メイン2] 高海 千歌 : わからない、といった表情で瞬きを。
[メイン2] 石戸 霞 : 瞬きに返すように、にこり。
[メイン2]
石戸 霞 :
「人間から見た神様は、いいもの、わるいもの
その二つに分けられるの」
[メイン2]
石戸 霞 :
「いい神様なら私たちに恵みを与えてくれるし
悪い神様なら私たちに災厄をもたらすの」
[メイン2]
石戸 霞 :
「でも、人間がどちらを下ろすかなんて決められない
……分家の私なら、なおさらね」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………へっ……?」
[メイン2] 高海 千歌 : 初耳だった。
[メイン2] 高海 千歌 : 霞さんとは、高校生の頃、交友関係があった仲であった、が……。
[メイン2]
高海 千歌 :
肝心の千歌はというと、スクールアイドル活動にとにかく夢中であった。
そのため、こうして霞の、巫女としての活動を聞くのはこれが初めてであり。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……ま、待って……それって……?」
[メイン2]
石戸 霞 :
本家と分家。
力関係というものが、そこには存在する。
生贄を用意しなくてはならないのなら、それは分家の者に選ばれる。
[メイン2]
高海 千歌 :
本家、そして分家の二つがあり。
良い神様、そして悪い神様、その二つも存在する、ということは─────。
[メイン2] 高海 千歌 : 「霞さんは………」
[メイン2] 石戸 霞 : 「ふふ、千歌ちゃんは頭がいいのね」
[メイン2] 石戸 霞 : 彼女の頭を撫で、言葉を口にする。
[メイン2]
石戸 霞 :
「私は悪い神様を、今も宿しているの
周りに災厄をもたらしながら、ね」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞に頭を撫でられ、んんっ……と声が漏れながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「…………へっ……!?い、今も……!?」
[メイン2]
高海 千歌 :
目を真ん丸にする。
驚愕の事実であった。
[メイン2] 石戸 霞 : こくり、と頷いて。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……昔、みんなで遊んでた時に、学校が火事になったでしょ?」
[メイン2] 石戸 霞 : そうして、首元の襟をめくる。
[メイン2] 高海 千歌 : 「あ……そう、いえば………」
[メイン2]
高海 千歌 :
脳裏に浮かぶ、火災の記憶。
ニュースにも取り上げられたほどの事件だ。
[メイン2]
石戸 霞 :
間にちらりと素肌が見えながら。
そこには生々しく残る、皮膚を焼いた火傷跡。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……周りに災厄を、もたらす……
……!!……そ、それ、じゃあ……!?」
[メイン2] 高海 千歌 : 「っっ……!!!」
[メイン2]
石戸 霞 :
「あれはね、私が悪い神様を宿すって聞いて……
拒否してしまった結果」
[メイン2]
高海 千歌 :
霞の肌に見える、火傷の痕を見て
表情が強張る。生唾をごくりと飲みながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
「火の手が回りに襲い掛かって……野放しにしたら、こうなってしまうって思い知らされたの
……このままじゃ、友だちも巻き込まれる、って」
[メイン2] 石戸 霞 : だから、と言葉を続ける。
[メイン2]
石戸 霞 :
「……その神様は、私の体に宿したまま。
悪いことは全部私に抑え込まれてるのよ」
[メイン2] 石戸 霞 : にこり、と微笑んで。
[メイン2]
石戸 霞 :
「……ごめんなさいね、こんなこと聞かせて
……でも、この事を謝れてなかったから……謝りたかったの」
[メイン2]
石戸 霞 :
想えば、私はずっとこれが心残りだった。
今を楽しいと思えていたけれど、あの時残した爪痕は確実に残っている。
[メイン2] 石戸 霞 : だから、"もし会えたら"なんて思ったのかもしれない。
[メイン2]
石戸 霞 :
「私は、そう言う存在
……幻滅しちゃったかしら?」
[メイン2] 高海 千歌 : 千歌は─────ただただ、絶句していた。
[メイン2] 高海 千歌 : まさか、あの事件の裏側で……霞さんが、こんなにも重たいものを背負っていただなんて、思いもしていなかった。
[メイン2] 高海 千歌 : 「………しない!!」
[メイン2] 高海 千歌 : ベンチから立ち上がり、霞をじっと見つめる。
[メイン2]
石戸 霞 :
千歌の表情に、困ったように眉をまげて。
……話すべきじゃなかったかもしれないわね────
[メイン2] 石戸 霞 : 「………え……!?」
[メイン2]
石戸 霞 :
ベンチの振動、そしてその場を揺らすかのような大声。
千歌に、目を奪われる。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……だって……だって!霞さんは、みんなのために……
自分を犠牲にしてまで……」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……私が……私が、学生生活をずっと……ああいう事件に巻き込まれずに
ずっと……健康で過ごせたのも、それは……霞さんのおかげ、だから……!!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「…………っ……」
[メイン2]
高海 千歌 :
「幻滅なんて……しない!!
むしろ、やっぱり……霞さんは、すごい人だって、思う……!!」
[メイン2] 高海 千歌 : 拳を固く握り締めながら、千歌は叫んでいた。
[メイン2] 高海 千歌 : どうして自分がこうして怒号を発したのか……自分でも、分からなかった。
[メイン2] 高海 千歌 : でも、そうさせた。
[メイン2]
石戸 霞 :
その、千歌の声。
活気に満ちた────正しくアイドルのような、張り上げんばかりの声に圧倒されながらも。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……私は……いるだけで、周りに迷惑をかけるような存在なのよ……?」
[メイン2] 石戸 霞 : 下から、彼女を見上げつつ。
[メイン2] 高海 千歌 : その言葉に、首を横に振る。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……もしかしたら、私がスクールアイドル大会で、予選落ちしちゃったのも
霞さんが宿してる、悪い神様の仕業があるのかもしれないけど
………でも……!!」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……霞さん一人でしょい込む必要なんて……ないんだもん……!!」
[メイン2] 高海 千歌 : ─────千歌は、大人げなく、子どものように叫び散らかしていた。
[メイン2] 石戸 霞 : 千歌の想いに、体を揺らされる。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……千、歌……ちゃん……」
[メイン2] 石戸 霞 : 持っていたペットボトルが、かぁん、と音を立てて落ちる。
[メイン2]
高海 千歌 :
「………霞さんっ!その……私は、私は……確かに
学生の頃、霞さんが背負ってきたものを見てこなくて……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……だから、こんなこと言う資格は、本当は私も無いかも、だけど……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………ねぇ、霞さん」
[メイン2] 高海 千歌 : 手を差し伸べ。
[メイン2]
高海 千歌 :
「せっかく、私達……学生時代に戻れたんだし
……どう、かな……?」
[メイン2] 高海 千歌 : 照れ臭そうにはにかみながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……この場所が怖い、だとか……大人の私達のこと、だとか……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「そういうの、ぜーんぶ、忘れて」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……"あの頃"の私達に戻って
─────仲良く、遊ぼうよ!」
[メイン2]
石戸 霞 :
大人の私たち────。
ずっと抱え込んでいるままの不安。
[メイン2]
高海 千歌 :
私も、私も……そうだ。"普通"の私の殻から抜け出せない私に
ずっと、ずっとずっと、コンプレックスを抱いていたけど。
[メイン2]
石戸 霞 :
過去に戻れた、その不安を抱える必要はない。
……孤独が合った未来に、果たして返る必要があるのだろうか。
[メイン2] 石戸 霞 : ごくり、と唾を飲み込む。
[メイン2]
高海 千歌 :
でも─────だからって、それを理由に、こうして重たいものを背負って
それを知らずにただ羨んでいる姿勢でいるのが、私にとっての……
正しい姿なんかじゃないって……!!
[メイン2] 石戸 霞 : そして、その手を取ろうと────。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……千歌ちゃんは、それでもいいのかしら?」
[メイン2]
石戸 霞 :
手がぴたり、と止まり。
そう投げかける。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……………」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の問いに、片方の眉がピクりと動きながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……あ、あはは……霞さんは、本当に……すごい、ですね」
[メイン2] 高海 千歌 : ぽりぽりと頬を掻きながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……ふふ、これでもお姉さんのつもりよ?」
[メイン2]
高海 千歌 :
「………んん……うん、私は……はい
"逃げてます"」
[メイン2]
石戸 霞 :
にこり、と笑いながら。
千歌の言葉に耳を傾ける。
[メイン2] 高海 千歌 : かなわないや……といった表情で笑いながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「………私は、今……中途半端、なんです」
[メイン2]
高海 千歌 :
「このまま、学生時代にリセットして……スクールアイドル活動も
改めて初めて……それで、今度こそ大会優勝を狙う、っていう
……そんな考えは……無くはない、んですけど……」
[メイン2]
高海 千歌 :
「あはは……失敗体験って……やっぱり、すっごく重たくて
だから………億劫になっちゃってるんです
……キラキラ輝く学生時代に、本当に戻っていいのかって」
[メイン2] 石戸 霞 : じっと、千歌の瞳に目をやりながら。
[メイン2]
高海 千歌 :
「でも……だからといって……大人の私に戻って……
……漫然とした日々を送るのも………」
[メイン2] 高海 千歌 : 少し視線を逸らしながら。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……あ、あはは、霞さんには教えてなかったかもですけど
私、十千万旅館の女将になったんです」
[メイン2] 高海 千歌 : ニコッ、と笑いながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
初耳、と言わんばかりに。
目を何度もぱちぱちと見開く。
[メイン2]
高海 千歌 :
「実家の跡を継いで……それで私は、学校を卒業してからも
ずっと、ずーーっとそこで働いて」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……もちろん!私にとっての大切な場所であることは確か、なんですけど
ただ……もう、"変化"はその場所には、なくて
……キラキラ輝くものはもう……無くて」
[メイン2]
高海 千歌 :
「……えへへ、同窓会に行こうかなって思ったのも
"変化"が欲しくて……っていう、そんな気持ちだったんです」
[メイン2]
石戸 霞 :
千歌が霞の巫女仕事に詳しくなかったように。
霞もまた、千歌の事について深く知らなかった。
[メイン2]
石戸 霞 :
「……そう……だったのね
あなたも、卒業してから……ずっと、変化は訪れてくれなかった」
[メイン2] 高海 千歌 : こくりと頷く。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……えへへ、だから……
……だから、うん、ちょっとこの場所は怖い、けど
スクールアイドル部に戻るのも怖い、けど……」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の手を取り。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……霞さんと一緒なら、私……
─────"楽しめる"ことができる……と思うんです!」
[メイン2] 高海 千歌 : ─────"あの頃"のような、スクールアイドルの笑顔を見せる。
[メイン2] 高海 千歌 : 橙色の後光が、千歌の背後から漏れ出ながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……千歌ちゃん……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「霞さん」
[メイン2] 石戸 霞 : その手に、ゆっくりと腰を上がらせていく。
[メイン2]
高海 千歌 :
オトナ
「─────"今"、出来ないこと」
[メイン2]
高海 千歌 :
コドモ
「"過去"、できなかったこと」
[メイン2] 高海 千歌 : 「良いことも、悪いことも、全部」
[メイン2] 高海 千歌 : 「私と一緒に、楽しんでください!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「…………」
[メイン2]
石戸 霞 :
その溢れんばかりの光が、霞にも幻視する。
そこにあるのは、アイドルらしくあろうとする彼女の姿で。
[メイン2] 石戸 霞 : きゅっと、唇を固く結ぶ。
[メイン2] 石戸 霞 : 私は────。
[メイン2] 石戸 霞 : 「…………」
[メイン2]
石戸 霞 :
ぎゅっと、彼女に腕を回して。
体を押し付ける。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……私も、一緒に楽しませてほしいわ」
[メイン2] 石戸 霞 : 「……身勝手な先輩でごめんなさいね」
[メイン2] 高海 千歌 : にこりとはにかみ。
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────私こそ、我儘な後輩でごめんなさい!」
[メイン2]
高海 千歌 :
ぐいっ、と引っ張り、二人が立つ。
夕焼けの光を浴びながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
サンシャイン
日光のように、笑う彼女に目を向けられず。
[メイン2]
石戸 霞 :
顔は彼女の胸元に隠したまま。
ただ、その答えにぎゅっと抱き締める力を強くして。
[メイン2]
石戸 霞 :
私は、霞んで消えてしまいそう。
だから、彼女に捕まって自分の存在をなんとか保たせるように。
[メイン2]
石戸 霞 :
夕焼けの光を浴びながら。
ぐいっ、と引っ張られて、二人が立つ。
[メイン2]
高海 千歌 :
たくさん、咲かせるんだ。
後ろめたい過去に、青春の花を。
[メイン2] 石戸 霞 :
[メイン2] 石戸 霞 :
[メイン2] 石戸 霞 :
[メイン2] 高海 千歌 : ─────そして二人はどこへ向かったのかというと。
[メイン2] 高海 千歌 : 電子音がぎゃんぎゃんと鳴り響く、大きな建物。
[メイン2] 高海 千歌 : ゲームセンター。
[メイン2] 高海 千歌 : 「じゃ~~ん!!霞さん!寄り道ー!!」
[メイン2]
高海 千歌 :
明るくけらけらと笑うように、両手を広げながら
ゲーセンの入り口を差す。
[メイン2] 高海 千歌 : 「ゲーセンって、学生時代を過ぎると行けなくなっちゃう場所だからねー!」
[メイン2] 石戸 霞 : 当の霞は、ぱちぱちと目を瞬かせる。
[メイン2] 高海 千歌 : 「……ほへ?」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の反応を見て、きょとん、と小首を傾げ。
[メイン2]
石戸 霞 :
「こ、これがげえせん……
すっごく人気があるところなのね……!?こんなに音が鳴り響いてるなんて……!」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………あ、も、もしかして……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「霞さん……こういう場所、行ったことなかったり……?」
[メイン2]
石戸 霞 :
目をゲーセンと、千歌の交互に向ける。
ゲーセンへは好奇。
千歌には、こんな事を知ってる彼女への尊敬。
[メイン2]
石戸 霞 :
「……あ、そ、その……
さ、茶道教室なら経験はあるわよ……!」
[メイン2] 高海 千歌 : 「さ、茶道教室……」
[メイン2]
高海 千歌 :
ゲーセンの方をちらりと見て。
言葉の差に、ギャップを抱く。
[メイン2]
石戸 霞 :
知らないことに少し恥ずかしかったのか。
顔を赤くしながらも。
[メイン2] 高海 千歌 : 動と、静。真逆オブ真逆。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……えっとえっと……ゲーセンはですねー……
むむむ……!どう言葉に表せばいいんでしょう……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……とにかく!楽しいんです!!超楽しいんです!!」
[メイン2]
石戸 霞 :
「……うぅ、ごめんなさい、その……
本当はこういった物を知らなくて…………」
[メイン2] 高海 千歌 : ビシッ!と霞に指差しながら。
[メイン2] 石戸 霞 : しょんぼりと顔を伏せながらも、千歌に向けて。
[メイン2]
高海 千歌 :
「あ、い、いえ!?責めてるわけじゃなくて……」
あわわわ、と両手を振りながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……そんなに楽しいものなの……?」
[メイン2] 高海 千歌 : にっこりと笑い、強く頷く。
[メイン2] 高海 千歌 : 「はい!!」
[メイン2] 高海 千歌 : そしてまた、手を差し伸べる。
[メイン2] 石戸 霞 : ピシッと向けられた指を、まじまじと見つめ。
[メイン2] 高海 千歌 : 「行きましょう!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「……うん、沢山……”楽しい”を教えて欲しいわ」
[メイン2] 石戸 霞 : その手を、しっかりと握る。
[メイン2] 高海 千歌 : その手をしっかりと握りながら、楽しくゲーセンへと入り─────。
[メイン2] 高海 千歌 : ガヤガヤと喧噪の中を巡りに巡って……。
[メイン2] 高海 千歌 : ─────太鼓の達人。
[メイン2] 高海 千歌 : 「さあ霞さん!リズムに合わせて太鼓を叩いてくださいね!」
[メイン2]
高海 千歌 :
専用機器を前に、バチを持ち。
ふんすー!と鼻息を上げ、気合を入れる。
[メイン2]
石戸 霞 :
「え、ええ……!
この赤い子と青い子を叩けばいいのよね……!」
[メイン2]
高海 千歌 :
「はい!あ、もう始まりますよー!
定番曲、夏祭りです!」
[メイン2] 高海 千歌 : 『君がいた夏は~遠い夢の中~』
[メイン2]
高海 千歌 :
「えい!えい!そい!ほい!あわわ!?ミスっちゃったー!?
う、うおお~~!!」
[メイン2]
石戸 霞 :
隣にいる千歌とは対照的に。
本格的に、姿勢を正して太鼓と真摯に向き合う。
[メイン2] 高海 千歌 : ドコドコドコー!と太鼓を叩きながら、無我夢中に遊ぶ。
[メイン2] 石戸 霞 : 「はあっ!やあっ!せえいっ……!この、はあっ!」
[メイン2] 石戸 霞 : どんどこ、リズムに乗りながら真剣に遊ぶ。
[メイン2] 石戸 霞 : そこには、笑顔が見えていて。
[メイン2] 高海 千歌 : 「わぁ……!?霞さん、上手い……?!」
[メイン2]
高海 千歌 :
「く、くぅぅ……私、これでも元スクールアイドルなのに……!
これが歳なのかなぁ……劣っちゃってる……!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「ふふっ……和の心を思ったらリズムが思い浮かんじゃって」
[メイン2] 石戸 霞 : にこり、として。
[メイン2] 石戸 霞 : 「あら……そうかしら?」
[メイン2]
石戸 霞 :
「千歌ちゃん、劣っているとは言うけど……
私より、ずっと楽しそうよ?」
[メイン2]
高海 千歌 :
「ふぇ……!?え、えへへ~~……!そう、かなぁ……?」
にへらと笑っている内に、ミス、ミス、ミス。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……!?!?あわわわ!?このままじゃ負けちゃう!
うおおお~~!!」
[メイン2]
石戸 霞 :
「わわっ……私も!!
よーし、負けられないわね……!」
[メイン2]
石戸 霞 :
袖をめくり、いよいよ熱を入れて叩き始める。
持ち前の胸もそれに釣られて大きく揺れながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「………!?!?」
[メイン2] 高海 千歌 : 暴れ牛な光景に、唖然とする千歌。
[メイン2] 高海 千歌 : わ、私……大人になっても、あんな風じゃなかったのに……!!
[メイン2] 高海 千歌 : 当然ながら結果として千歌は、太鼓の達人対決では敗れてしまったとさ─────。
[メイン2] 高海 千歌 : そして次は─────マリオカート。
[メイン2] 高海 千歌 : 専用機器に乗り、ハンドルを握り締める。
[メイン2] 高海 千歌 : 「今度は負けませんからね!霞さんー!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「ふふ、望むところよ~」
[メイン2]
石戸 霞 :
アクセルを踏み、ハンドルを操作する。
目の前の画面のキャラクターが自分のように動くことに、目を瞬かせて。
[メイン2] 高海 千歌 : 「くらえ~!赤甲羅ー!」
[メイン2] 高海 千歌 : ばしゅーん、と先頭を走る霞のキャラへ攻撃を仕掛ける。
[メイン2]
石戸 霞 :
「千歌ちゃんは色んな遊びを知ってるのね~
昔は全然、こんなこと知らなかった……きゃぁっ!?」
[メイン2]
高海 千歌 :
「えへへー!学生の本分は遊びですからー!
それじゃあ先頭お先ー!」
[メイン2]
石戸 霞 :
ダメージ音がスピーカーから響く。
その隙に千歌のキャラが、通り越してしまい。
[メイン2] 高海 千歌 : 「うおおお~~!!このままゴールへ一直線だ~~!!」
[メイン2]
石戸 霞 :
「あ、ああっ……ず、ずるぃ!
このゲームって車を走らせるだけじゃないの!?」
[メイン2]
高海 千歌 :
カーブを曲がる千歌のキャラ
つられて千歌も体が傾いていく。
[メイン2] 石戸 霞 : 呆気に取られており、わたわたと拙い動きでハンドルを握り返す。
[メイン2]
高海 千歌 :
「へへへーーん!このゲームは、弱肉強食なんですよー!
勝つためには何をしたっていいんです!わっはっはー!」
[メイン2]
石戸 霞 :
「そ、そんなぁ……!
このままじゃ千歌ちゃんに食べられちゃう……!」
[メイン2] 高海 千歌 : 「がおー!普通怪獣ちかちーだどー!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「きゃあ~!?」
[メイン2] 石戸 霞 : 驚きのあまり、ぱっとアクセルから足を踏み外してしまい────。
[メイン2]
石戸 霞 :
目の前には。
銀色で縁取られた2位の文字が。
[メイン2]
高海 千歌 :
「やったーー!リベンジマッチ成功ー!ぶいっ!
霞さんを食べちゃいましたー!」
[メイン2]
高海 千歌 :
手を獣のように、詰めを尖らせるようなポーズをしながら
にしし!と霞へ笑う。
[メイン2] 石戸 霞 : 「た、食べるにしても優しくして欲しいわ……」
[メイン2]
石戸 霞 :
リベンジマッチをされたことで、しょんぼりとした顔になりつつも。
[メイン2] 石戸 霞 : 千歌の元気な笑顔に、釣られてふふっと笑みがこぼれる。
[メイン2] 高海 千歌 : 「えへへ!冗談ですよ冗談!」
[メイン2] 高海 千歌 : そうして二人で楽しくわいわいとしながら─────。
[メイン2] 高海 千歌 : ─────今度は、UFOキャッチャーに。
[メイン2]
高海 千歌 :
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!!なかぬぁか……ぬいぐるみが……!!
取れ……!!!ないっ………!!!!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「が、頑張って千歌ちゃん…!!」
[メイン2] 石戸 霞 : 千歌の隣で、両腕を揺らして応援する。
[メイン2] 高海 千歌 : 「む、むむむむ……!!!」
[メイン2]
高海 千歌 :
「か、霞さん!何か!良い方法はありませんか!?
あ!神頼み!神様を使うとかー!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「こ、こんなことに使っていいのかしら……!?」
[メイン2]
石戸 霞 :
と、一瞬口には出るが。
……いえ、どうせ悪いこともいいこともしちゃうと決めたんだもの……!
[メイン2] 石戸 霞 : 「……ううん、やっぱり……いい考えね」
[メイン2]
石戸 霞 :
きっと顔を見上げる。
そしてアームへと瞳を向け─────
[メイン2] 高海 千歌 : 「へっへっへー……!お願いしますよ霞さん……!!」
[メイン2] 高海 千歌 : ワクワク!というような表情で見つめながら。
[メイン2] 石戸 霞 : ─────絶一門
[メイン2]
石戸 霞 :
霞は守りを固める力。
それがアームへと引き合わさり。
[メイン2] 石戸 霞 : がしっ!
[メイン2] 石戸 霞 : アームはぬいぐるみを、固く爪で捕らえこんだ。
[メイン2] 高海 千歌 : 「わっ……!!」
[メイン2]
高海 千歌 :
UFOキャッチャーは、通常─────アームの強度が調整されており
数回程度では、景品を獲れるような強さには設定されていない。
[メイン2] 高海 千歌 : が、しかし……"神"の前では、無力っ。
[メイン2] 石戸 霞 : 「えへへ、ズルしちゃったわね」
[メイン2] 石戸 霞 : てへぺろ、舌をちらりと千歌に見せながら。
[メイン2]
高海 千歌 :
「えへへ!いいと思います!
だって─────」
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────今、私達は"学生"、なんですからっ!」
[メイン2]
高海 千歌 :
ニコッ、と悪戯っぽい笑みを浮かべながら
出てきたぬいぐるみを取り出し、霞にはい!と渡す。
[メイン2] 石戸 霞 : 「わっ……」
[メイン2] 石戸 霞 : その悪戯っぽい笑い方に、微笑みながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……うん、ありがとう……大切にするわ」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……えへへ」
[メイン2] 高海 千歌 : 照れ臭そうに、小さく笑いながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
ぎゅうっと、ぬいぐるみを抱きしめる。
胸によって圧迫されているが。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……ご、ごくりっ……
やっぱり、霞さんって、おっき………
……や、やっぱ、なんでもありません!」
[メイン2] 石戸 霞 : 千歌の言葉に、きょとんと首を傾げる。
[メイン2]
石戸 霞 :
「ふふっ、でも……本当に楽しかったわ
こんなの、今までにないくらい……」
[メイン2]
石戸 霞 :
「……もし……これが夢だとして
いつか消えてしまうなら……」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………」
[メイン2] 石戸 霞 : 「……残念ね」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………そう、です……ね」
[メイン2] 石戸 霞 : ぎゅぅっ、もう一度ぬいぐるみを抱きしめて。
[メイン2]
高海 千歌 :
耳に聞こえるゲーセンの電子音の喧騒が、なんだかぼーっと
遠くに離れていくような感覚になる。
[メイン2] 高海 千歌 : UFOキャッチャー台の前に、二人だけの静かな空間が生まれるように。
[メイン2]
石戸 霞 :
他に人もいない。
私たちだけの時間の中で。
[メイン2]
高海 千歌 :
「………私は、私はきっと大人に戻ったら……
……まだ、女将としての仕事に専念する毎日になる……と思います」
[メイン2] 石戸 霞 : 「…………」
[メイン2] 高海 千歌 : 「……霞さんは─────」
[メイン2]
高海 千歌 :
一歩前へ出て、霞を見上げる。
そして、黒い瞳を覗くように見つめながら。
[メイン2]
高海 千歌 :
・・・・
「─────帰りたいですか?」
[メイン2] 石戸 霞 : 「……」
[メイン2]
石戸 霞 :
瞳と共に、心の奥底を覗かれたように。
顔を地面へと俯かせて。
[メイン2] 高海 千歌 : 「私は、中途半端な人間です」
[メイン2]
高海 千歌 :
「学生の私にも、大人の私にも
……どっちにも……"私"は、いないと思います」
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────霞さんは、どうですか?」
[メイン2]
石戸 霞 :
千歌の言葉が。
アイドル同好会を目にした時の顔─────心ここにあらずといった表情と共に。
[メイン2] 石戸 霞 : 「私は、一本道よ」
[メイン2] 石戸 霞 : 「どんな選択肢を取ろうとも、生まれてきた時点で運命は決まってる」
[メイン2]
石戸 霞 :
「大人になるにつれて、私の力は弱まっていくの
だから、その分外界と隔離しないといけない」
[メイン2] 石戸 霞 : 「大人になれば、きっと一人ぼっち」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の手を取る。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……それなら、せめて……」
[メイン2] 石戸 霞 : はっ、と顔を上げる。
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────"一人"には、しませんよ」
[メイン2]
高海 千歌 :
にこっ、と笑い。
それ以上言葉を紡がない。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……千歌、ちゃん……」
[メイン2]
石戸 霞 :
何度も引かれてきた手。
その手の体温は、とてもとても暖かく。
[メイン2] 石戸 霞 : 普通なのに、でもその普通が暖かい。
[メイン2] 石戸 霞 : 「私は─────」
[メイン2] 高海 千歌 : 私は、天岩戸の扉を─────。
[メイン2] 石戸 霞 : ぎゅっと、とその手に縋るように。
[メイン2] 高海 千歌 : ─────"答え"は、決まった。
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の言葉に、こくりと頷いた。
[メイン2] 石戸 霞 : 「─────千歌ちゃんと一緒にいたい」
[メイン2] 高海 千歌 : その言葉は、千歌がこの世で一番欲しかったものであった。
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────はい」
[メイン2]
高海 千歌 :
潤んだ瞳から、少し雫が漏れながら。
やがて、電子音の喧騒は戻っていく。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……ずっと、ずっと……いたいのよ……」
[メイン2] 石戸 霞 : ぽふん、と千歌の胸元に顔を埋める。
[メイン2] 石戸 霞 : 千歌の制服に、濡れたシミが形作られていく。
[メイン2]
高海 千歌 :
優しく背中をさすりながら─────。
霞の耳元に、ある言葉を囁く。
[メイン2] 高海 千歌 :
[メイン2] 高海 千歌 :
[メイン2] 高海 千歌 :
[メイン2] : かたん、かたたん。
[メイン2] : 電車が、止まる。
[メイン2]
:
『間もなく、百合が原に停車します
ホーム側の扉は────』
[メイン2] : 聞き馴染みのある、車内音声。
[メイン2] :
[メイン2] :
[メイン2] :
[メイン2] 高海 千歌 : いつ降りたのか、駅のホームに立っていた。
[メイン2] 高海 千歌 : "スマートフォン"のディスプレイは、7:45を示しており。
[メイン2] 高海 千歌 : あと15分以内に学校に到着しなければ、遅刻となってしまう。
[メイン2]
高海 千歌 :
「あわわわわわ!!!急がなくちゃーーー!!!
寝坊しちゃったよーーーー!!!」
[メイン2]
高海 千歌 :
改札にスマホを翳し、支払いを済ませる。
そうして通学路をとにかく、走る、走る、走る。
[メイン2]
高海 千歌 :
─────そうしてどうにか学校に到着する。
汗だくの額を腕で拭いながら、ふぅ、と息を吐き捨て。
[メイン2] 高海 千歌 : 下駄箱で上履きに履き替えていると─────。
[メイン2] 石戸 霞 : 「────おはよう、千歌ちゃん」
[メイン2] 高海 千歌 : 「!! あ、霞さん!えへへ!おはようございます!」
[メイン2]
高海 千歌 :
バッ、と振り向き、満面の笑みを見せる。
無邪気で、元気一本な、そんな笑顔。
[メイン2] 石戸 霞 : 丁度、霞も同じ時間に到着したのだろう。
[メイン2] 石戸 霞 : その溢れんばかりの明るさに、思わず笑みを零して。
[メイン2] 石戸 霞 : 「ふふ、相変わらず元気一杯なのね」
[メイン2] 高海 千歌 : そんな千歌のほっぺには、ごはん粒がくっついていた。
[メイン2] 高海 千歌 : 「えへへ!だって、気持ちの良い朝ですし、それに……」
[メイン2] 高海 千歌 : ぎゅっ!と霞の腕に抱き着き。
[メイン2] 高海 千歌 : 「霞さんと会うの、楽しみでしたから!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「……あっ……」
[メイン2]
石戸 霞 :
腕に、ひしりと掴まれた腕。
とても暖かなその力は、霞の顔を林檎のように赤面させて。
[メイン2] 石戸 霞 : 「も、もぅ……他に人がいるかもしれないのに……」
[メイン2]
石戸 霞 :
そうは言うが、霞の言葉の節々は上向きで。
嬉しさを隠しきれていない。
[メイン2]
高海 千歌 :
「いいじゃないですかー!あ、霞さん!
今日も寄り道、しませんかー?」
[メイン2]
高海 千歌 :
少し悪戯っぽい笑みを含ませながらも
楽しそうに廊下を一緒に歩く。
[メイン2]
石戸 霞 :
「ええ、もちろん……!
でも……"楽しみ"にしすぎて、ちょっとはしゃぎすぎちゃったのかしら?」
[メイン2] 石戸 霞 : 微笑みながら、手を千歌の口元に。
[メイン2]
石戸 霞 :
そして、ひょいっと。
ご飯粒を掬う。
[メイン2] 高海 千歌 : 「ふぇっ……!?あ……!ご、ご飯……!!」
[メイン2] 高海 千歌 : 恥ずかしくなったのか、顔を赤くさせながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……ふふふ、私も遅くなっちゃったからあんまり口うるさくは言えないんだけどね」
[メイン2] 石戸 霞 : そのまま……ご飯粒をぱくっと。
[メイン2]
高海 千歌 :
「あーーー……霞さんのおうち、すっごく厳格なところみたい……
ですもんね……?……って、わわわ!?か、霞さん!?」
[メイン2] 高海 千歌 : 「な、なんで!?食べちゃって……!?!」
[メイン2] 石戸 霞 : 「へ?なんでってそれは……」
[メイン2]
石戸 霞 :
霞の自覚としては、1粒にも百の神。
勿体なさでつい救って食べたのだが。
[メイン2]
石戸 霞 :
千歌の慌てっぷりに。
流石に、自分のした事の重大さを知り。
[メイン2]
石戸 霞 :
「………あ……そ、そのっ……
……な、なんでもないのよ…!?いや、なんでもってわけじゃないけど…!」
[メイン2] 石戸 霞 : パタパタと、抱きつかれていない方の手で交互に手を振る。
[メイン2] 石戸 霞 : 顔は先程よりもさらに真っ赤にして。
[メイン2] 高海 千歌 : 「うぇっ……!?は、はひ……!?そ、そう、なんですね……!?」
[メイン2] 高海 千歌 : 千歌もまたつられてますますと慌てながら。
[メイン2]
石戸 霞 :
……ああっ、私ったら……!!
千歌ちゃんと……口移し……なんだか、前なら気にしないことだったのに……
この子となると、とっても恥ずかしく……
[メイン2]
石戸 霞 :
いや。
……千歌ちゃん、だからこそ。
かも……しれない。
[メイン2] 石戸 霞 : 「……そのね」
[メイン2] 高海 千歌 : 「………っ……は、はい……!」
[メイン2] 高海 千歌 : 霞の顔を見上げながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 見上げられた瞳に、自らの瞳を映して。
[メイン2] 石戸 霞 : 「あなたは、私の─────」
[メイン2]
石戸 霞 :
普通じゃない
「─────特別 な人よ」
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────」
[メイン2]
石戸 霞 :
こんな私を受けいれた彼女に、贈る言葉は沢山ある。
でも、一つだけ言えるとしたら。
[メイン2] 石戸 霞 : ぎゅっ。
[メイン2] 石戸 霞 : 自分から、彼女の腕に抱きしめて。
[メイン2]
高海 千歌 :
その言葉に、目を大きく見開きながら
涙腺が崩れていきそうになる感覚を抱く。
[メイン2] 高海 千歌 : そして─────温もり、暖かな、温もり。
[メイン2] 高海 千歌 : 天岩戸に閉じ込めた太陽は、こんなにもあったかい。
[メイン2]
高海 千歌 :
「………えへ、えへへ……そう、かな……
私は……霞さんにとっての、特別、かな……」
[メイン2]
石戸 霞 :
「……ふふ、何度だって言ってもいいのよ
それくらい……大切だもの」
[メイン2] 石戸 霞 : 頭をぽんと、彼女の肩に預けて。
[メイン2]
高海 千歌 :
「あぅ……ぅぅぅ……
……それなら霞さんは私にとっての─────」
[メイン2] 高海 千歌 : 同じく、千歌もまた霞の肩に頭を預けながら。
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────副を呼ぶ神様かも……なんちゃって」
[メイン2] 高海 千歌 : えへへ、と笑いながら。
[メイン2] 石戸 霞 : 「…………」
[メイン2]
石戸 霞 :
じわりと。
首元に焼け着いた傷跡が、消えていくような錯覚を覚えて。
[メイン2]
石戸 霞 :
「…………千歌ちゃん……
ううん、千歌」
[メイン2] 石戸 霞 : 「ありがとう…」
[メイン2] 石戸 霞 : 目の奥がじわりと暖かくなって。
[メイン2]
高海 千歌 :
「……私なんかじゃ、分不相応かもしれませんけど……
……私は、霞さんと歩む道を選びましたので
だから─────」
[メイン2]
高海 千歌 :
「霞さんの背負ってるものを、私も肩代わりできれば
……それが私にとっての幸せでも、ありますから」
[メイン2]
高海 千歌 :
千歌と呼び捨てにされたことで、胸の奥がきゅぅ、となりながら。
自分が、霞さんにとっての"特別"になっていることに
心地の良い多幸感に包まれていく。
[メイン2] 石戸 霞 : 「うん、それはとっても……いいわね」
[メイン2]
石戸 霞 :
「私も千歌の背負ってるものを頂戴
その分幸せも、半分こしましょう」
[メイン2] 高海 千歌 : 「─────うん!」
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石戸 霞 :
肩代わりする、そんな言葉。
私の無意識に背負っていた、責任と役目の全て。
それが、解けていく感覚。
[メイン2] 石戸 霞 : 元気のいい返事に、にこりと微笑む。
[メイン2]
高海 千歌 :
私は、スクールアイドルが好きだ。もちろんこれは、学生の身に戻った今
続けていきたいものだ。
でも─────それだけじゃない。
[メイン2]
石戸 霞 :
きっと、これが神話なら。
千もの歌で祝福されるかもしれない、そんな幸せな物語。
[メイン2]
高海 千歌 :
私は─────霞さんのお手伝いをすることにもなった。
……と言っても、世話係みたいなもので、あまり役に立てているのかは分かんないけど。
[メイン2]
高海 千歌 :
神代神社は、本当に神秘的な場所だった。
こんな世界もあったんだなぁって、この世界には知らないことがたくさんあった。
[メイン2] 高海 千歌 : ワクワクが、ドキドキが、たっくさんあった。
[メイン2]
高海 千歌 :
学生生活と、スクールアイドル活動と、巫女さんの世話係
三足の草鞋で、すっごく大変だけど─────でも
………大切な人がいる今なら私は、どこまで駆け出せそうだ。
[メイン2]
高海 千歌 :
もしかしたら、私を縛っていた運命も
─────絶一門、されちゃったかも?
なんちゃって。
[メイン2] : 『夢十夜』という小説がある。
[メイン2] : 「こんな夢を見た」から始まる、不思議な十つの夢を書き連ねた作品だ。
[メイン2] : それらには繋がりこそないが、どれも人間の奥深い心情を捉えた内容ばかりで
[メイン2] : 夢の出来事ながらも、激しく移り変わっていく現実のように感じられるようなものでもある。
[メイン2] : 『仮想現実説』。
[メイン2] : この世界が、本当は仮想世界で作り上げられたものであり、それを否定する証明はできないというものである。
[メイン2] : であれば、この"過去の夢"もまた─────
[メイン2] : 彼女達にとっての、"本物の世界"であることには、違いないのであろう。
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[メイン2] : ひらり、ひらり
[メイン2] : 終着、止まったままの電車。
[メイン2] : そこにひらひらと、空を舞うのは。
[メイン2] : 電車にぱたりと止まった、胡蝶の姿だった。
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